自動車部品メーカーのビジネスモデルを探る 三ツ知のIR資料から見る成長戦略

金属製品

企業概要と最近の業績
株式会社三ツ知は、自動車部品におけるカスタムファスナーを中心に製造・販売を行っている企業です。冷間鍛造技術を強みとし、高い精度と強度が求められる部品を幅広く提供しています。自動車メーカーや部品サプライヤーとの取引を通じて培われたノウハウを活かし、安定した品質管理と生産効率の向上を両立している点が大きな特徴です。最近の業績としては、2024年6月期に売上高131.4億円を記録し、前年と比べて4.7パーセント増加しました。さらに、営業利益4.6億円、経常利益6.3億円、当期純利益4.1億円と大幅な伸びを見せ、コスト管理の改善や自動車業界の需要回復がプラス要因となっています。売上増加とコスト最適化の成果が結実したことで、経常利益は前年同期比351.8パーセント増、当期純利益も1,409.4パーセント増という非常に高い成長率を示しました。今後も市場の変化に対応した製品開発や生産体制の柔軟性が、さらに重要になっていくと考えられます。

ビジネスモデルの9つの要素

価値提案
・自動車向けカスタムファスナーにおいて、高精度かつ高強度を両立させる製品を提供しています。エンジン周りやサスペンション部品など、車両の重要な機能を支えるため、品質の高さが企業価値として認知されており、顧客の安全性や性能向上に大きく貢献しています。
なぜそうなったのか 冷間鍛造技術を核にしたモノづくりで、より複雑な形状にも精度を維持しながら対応できる体制を整えたためです。この技術力が長期的な取引や新規案件獲得につながり、企業としての独自の価値提案が確立しました。

主要活動
・製品設計から冷間鍛造、最終的な品質管理に至るまでの一貫体制を整えています。製品の設計段階で顧客の要望を詳細にヒアリングし、部品ごとの厳格な品質評価基準に基づいて試作から量産までをスムーズに進める点が特徴です。
なぜそうなったのか 自動車業界は厳しい品質基準を求めており、それに応えられる体制を構築する必要がありました。工程を分断せずに社内で一貫処理できることで、リードタイムの短縮や不良率の低減を実現し、顧客満足度を高めています。

リソース
・高度な冷間鍛造技術と、その技術を活用できる熟練の人材が重要なリソースとなっています。研究開発部門も充実しており、新しい材質や形状への対応力を高めることで、他社との差別化を図っています。
なぜそうなったのか 同社が長年培ってきた製造ノウハウや技術者の知見は、模倣困難なコアコンピタンスとして積み上がりました。積極的な投資と人材育成を行うことで、絶えず高付加価値の製品を生み出すエンジンとして機能しているのです。

パートナー
・主な取引先は自動車メーカーや部品サプライヤーなどです。共同開発の形で新しいファスナーの提案を行うことも多く、顧客が求める品質・コスト・納期の要件に応じて緊密に連携しながら製品化を進めています。
なぜそうなったのか 自動車業界はサプライチェーンが複雑で、メーカーや他のサプライヤーとの協業が欠かせません。特に部品同士の高い互換性が必要となるため、相互に情報を共有し合うパートナーシップが不可欠となり、安定的なビジネス関係が築かれています。

チャンネル
・営業スタッフによる直接提案や、技術展示会・業界イベントへの出展によって顧客を獲得しています。顧客からのリクエストに応じて製品をカスタマイズする場合も多く、オンラインでも製品情報を公開するなど複数の接点を活用しています。
なぜそうなったのか 自動車メーカーやサプライヤーの購買部門は、複数社の提案を比較検討するケースが多いため、自社の強みを直接アピールする場が必要でした。展示会や営業活動を通じて技術力をリアルに伝えられる仕組みが有効と判断されたのです。

顧客との関係
・製品カスタマイズや技術サポートを通じて、長期的な取引関係を築いています。試作段階から量産開始後のアフターフォローまで綿密に対応し、顧客とのコミュニケーションを重視する文化が根付いています。
なぜそうなったのか 自動車メーカー側としては、万一の不具合や改良点があればすぐに対応してほしいという要望が強くあります。同社は少数精鋭の技術チームと迅速な意思決定プロセスを整備することで、顧客との関係を強固にしているのです。

顧客セグメント
・主に自動車メーカーおよび一次・二次サプライヤーが中心です。特に、エンジンや足回りなど安全面や走行性能に直結する領域で同社の高い製品品質が評価されています。
なぜそうなったのか ファスナーは車両全体を支える基盤部品であり、重要保安部品として高い信頼性が求められます。そこに専門特化し、長年の実績と技術力を積み重ねたことで、自動車関連企業から厚い支持を得るようになりました。

収益の流れ
・製品単価と納入数量に応じた売上をメインとし、顧客ごとに価格交渉が行われています。大量生産品だけでなく、小ロットの特注品からも一定の利益を確保できる体制を整えています。
なぜそうなったのか 一般的に自動車部品の価格競争は激しく、利益率の確保が難しい分野です。冷間鍛造のノウハウを活かしつつ、少量多品種にも対応できる柔軟性を武器にし、付加価値の高い製品を提案することで一定の利益水準を維持しているのです。

コスト構造
・主要コストは材料費や製造工程での人件費、研究開発に伴う設備投資費などです。自動車業界の品質基準に合わせた検査装置や管理システムへの投資が欠かせないため、固定コスト比率が高くなりがちですが、安定した受注でカバーしています。
なぜそうなったのか コスト構造が固定化しやすい自動車部品ビジネスでは、ある程度の生産量を確保できなければ採算が取りにくくなります。同社は継続的な設備投資と効率的な生産ラインの確立により、コスト高を抑制しつつ高品質を維持する戦略を取っています。

自己強化ループ
同社では高度な冷間鍛造技術が顧客の高い満足度を生み出し、その結果としてリピート受注や新規顧客からの問い合わせ増につながる好循環が生まれています。自動車業界では一度品質が認められると、長期的な取引関係に発展しやすい傾向があります。こうした安定した受注がさらなる研究開発投資を可能にし、より高精度な製品づくりを行えるようになるのです。また、自動車メーカーが開発する新型車種やEV化などの次世代技術でも、軽量化や高耐久化といった課題に直結するファスナー分野の需要が高まります。これが再度同社の技術開発を後押しし、新たな顧客獲得をも促すという循環構造が形成されています。いかに市場の変化に対応し、自社の技術力を進化させ続けるかが、このループを持続可能にする鍵といえるでしょう。

採用情報
同社の初任給は現在非公開ですが、年間休日は119日と公表されています。採用倍率も公開されていませんが、高い技術力を求める企業として専門知識を持った人材の確保に力を入れているようです。冷間鍛造や品質管理に関心のある学生や転職希望者にとっては、技術を深く学べる魅力的な環境といえます。

株式情報
三ツ知は証券コード3439で上場しており、2025年6月期には1株あたり20円の配当金が予定されています。株価は2025年1月30日時点で683円となっており、自動車関連銘柄の一角として投資家からも注目が集まっています。業績拡大に伴う配当方針や株価動向は、今後さらに注視されるでしょう。

未来展望と注目ポイント
今後、自動車業界はEVシフトや自動運転技術の進化に伴い、関連部品の軽量化や高い信頼性がこれまで以上に重要視される見通しです。その中で、同社の冷間鍛造技術は軽量かつ高強度の部品づくりに大きく貢献できるため、新たな需要に対応する強みがあります。また、国際競争力を強化するため、海外市場への積極展開やグローバルなサプライチェーンとの連携も期待されます。国内では人口減少や自動車需要の先行きに懸念がある一方、環境規制の強化で電動化が進むと、ファスナーの品質・コスト競争力はますます競合との差別化要素になるでしょう。技術力をさらに高め、研究開発を継続しながら顧客ニーズを的確に捉えることで、業績の拡大や株主還元策の充実が見込まれます。新たな市場機会への機動的な対応が、今後の企業価値を左右する重要なポイントとなりそうです。

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