ビジネスモデルが描く成長戦略 株式会社久世の業績から見る最新動向

卸売業

企業概要と最近の業績
株式会社久世は外食や中食産業向けに業務用食材や資材を幅広く提供している企業です。食品メーカーからの仕入れや物流ネットワークを活用し、多様な顧客のニーズに応えてきました。2024年3月期の業績は、売上高が644億7,400万円に到達し、前年同期比で14.2%増という好調ぶりを示しています。営業利益においても18億6,100万円を記録し、こちらは前年同期比で121.0%増と大幅に伸長しました。これはコロナ禍以降の外食や中食需要の回復基調だけでなく、新規顧客の積極的な獲得戦略が奏功した結果といえます。既存顧客への安定供給体制を維持しながら、新たなチャネルや取扱商品の拡充に投資を行うことで売上の拡大につなげています。また、物流効率化や在庫の適正管理など、コスト面の取り組みが営業利益の伸びを後押ししました。外食産業は景気や社会情勢に左右されやすい一面がありますが、同社は中食や給食分野にも力を入れることで分散効果を高め、安定した事業基盤の構築を目指しています。こうした戦略がIR資料などにも示されており、外食産業の成長を支える存在として今後も注目を集めそうです。

ビジネスモデルの9つの要素

  1. 価値提案
    多様な食材や資材を安定供給することが同社の価値提案です。レストランやホテル、中食事業者など、食に関わるさまざまな業態のニーズに柔軟に対応できるよう、加工品から生鮮品まで幅広く取りそろえています。これにより、顧客は一度に必要な商品をまとめて購入できるため、仕入れの手間や物流コストを削減しやすくなります。同時に、食材だけでなく容器や調理器具などの資材も扱うことで、ワンストップサービスを提供している点が特徴です。なぜそうなったのかという背景には、外食産業の忙しく変化の早い現場を支援し、調達から在庫管理、メニュー開発までトータルでサポートする必要があるという認識があります。幅広い商品を揃えることで、顧客はメニューの幅を広げられ、付加価値の高いサービスを提供しやすくなるため、久世の価値提案は顧客の事業拡大に直結します。商品開発や供給体制において安定性と多様性を両立することが、同社の最大の強みとなっているのです。

  2. 主要活動
    同社の主要活動は大きく分けると、商品調達・在庫管理・物流・メニュー提案といったプロセスに集約されます。まず商品調達では、国内外の食品メーカーや農家との連携を通じ、多岐にわたる食材・資材を仕入れています。次に、在庫を抱える拠点を最適に配置し、鮮度管理と在庫量のバランスを維持することに注力しています。そして物流では、顧客の注文に応じて全国規模で迅速な配送を行う体制を整えており、突発的な発注にも対応しやすい仕組みを構築しています。メニュー提案では、ただの卸売だけでなく、仕入れた食材を使った調理アイデアを顧客に提供したり、市場動向を踏まえた新メニューや季節商品の提案などを行います。なぜそうなったのかというと、外食事業者にとっては単に食材を安定供給してもらうだけでなく、流行やコストに合わせたメニュー企画を共同で行うパートナーとしての役割が求められているからです。こうした付加価値型の営業活動が、同社の強固なリピート顧客を生む原動力となっています。

  3. リソース
    久世が保有するリソースとしては、広範囲の地域をカバーできる物流拠点やトラック便のネットワーク、安定供給を可能にする豊富な商品在庫、そして食品業界に精通した営業担当者の専門知識が挙げられます。物流拠点は全国各地に配置され、温度帯や鮮度を管理しながら多品種を保管する仕組みが整備されています。さらに、営業スタッフには外食・中食のトレンドや顧客のメニュー構成を理解した人材が多く、仕入れや提案に活かせる情報を的確に共有できる体制を構築しています。なぜそうなったかといえば、外食・中食産業はメニュー開発や季節商品の導入サイクルが早く、そのタイミングに応じて在庫と配送をスムーズに行う必要があるためです。また、多様な食材をワンストップで提供するには、ある程度の在庫量を確保しつつ、鮮度管理が欠かせません。人材面でも、ただモノを届けるのではなく、提案力を備えた営業担当が必要とされます。これらのリソースを総合的に活用し、外食・中食事業者の経営を支援できる体制が同社の大きな強みとなっています。

  4. パートナー
    同社のパートナーには食品メーカーや農家などの仕入れ先、物流業者、そして商品開発に関わる協力企業などが含まれます。メーカーとのパートナーシップでは、安定的に商品を供給してもらうだけでなく、新商品の共同開発や改良の相談が可能です。農家や生産者との連携では、原材料の安定供給や価格面での交渉、さらには地域限定の食材を活かしたメニュー提案にもつながります。物流業者との協力体制は、配送網を拡大して顧客のニーズに応えられる柔軟性を高めます。なぜそうなったのかというと、外食産業の消費動向は国内外でめまぐるしく変化しており、一社単独ではすべてを賄えないからです。パートナーとの協業を通して、幅広い品目の安定確保や新サービスの開発が可能になり、それが顧客満足度の向上にも直結します。また、パートナーの生産現場や開発部門との情報交換によって、食材の品質管理やコスト最適化、さらには環境・社会に配慮した持続可能なサプライチェーンの確立にも寄与できる体制を築いています。

  5. チャンネル
    久世が顧客と接点を持つチャンネルとしては、営業担当者による訪問、電話やメールでのやりとり、そしてオンライン注文システムが挙げられます。現場を重視する外食事業者にとって、直接会って食材サンプルやメニュー提案を受けることは重要であり、定期訪問による対面コミュニケーションが欠かせません。一方、オンライン注文システムを整備することで、顧客は24時間いつでも発注が可能になり、忙しい店舗運営の合間を縫って手軽に在庫を補充できるメリットがあります。なぜそうなったのかといえば、外食や中食は急な来客数の変動や仕入れ量の調整が多く、リアルタイムで在庫状況を把握できる仕組みが必須だからです。また、訪問とオンラインのハイブリッドなチャンネルを活用することで、顧客は人手の不足やコスト削減といった経営課題を解決しやすくなります。こうしたチャンネル戦略により、きめ細やかなサポートと利便性の両立を図っている点が特徴です。

  6. 顧客との関係
    顧客との関係は長期的なリレーションシップを築くことが重視され、単なる商品のやりとりではなく継続的なコンサルティングパートナーとしての役割を担っています。定期訪問で新商品の試食会や厨房の課題ヒアリングを行い、それぞれの店に合った商品選定や新メニュー開発を支援します。トラブルやクレームが発生した際には迅速に対応し、代替商品の手配や配送スケジュールの調整を柔軟に行うことで、顧客満足度を高めています。なぜそうなったかといえば、外食・中食は一度の商談だけでなく、日々の仕入れが継続するビジネスであるため、円滑なコミュニケーションとフォローアップが収益に直結するからです。顧客が繁忙期や新店舗オープン時に必要とする商品を確実に供給するためにも、常に最新の情報を共有する仕組みを整えています。こうした信頼関係をベースにした関わり方が、差別化要因となり、久世を選ぶ理由にもつながっています。

  7. 顧客セグメント
    久世が主にカバーする顧客セグメントは、レストランや居酒屋などの外食産業、ホテルや旅館など宿泊業での食事提供、中食としては惣菜店や給食事業者など、多岐にわたります。施設の規模や業態によって必要とされる食材の種類や量が異なるため、セグメントごとにカスタマイズした提案を行うことで満足度を高めています。なぜそうなったかというと、一括で同じ商品ラインナップを提供しても、業態ごとにメニュー構成や調理設備が大きく異なるからです。また、最近では健康志向や国産食材へのニーズが高まっており、給食事業者では栄養バランスやアレルギー対策が重視される場合も多いです。こうした各セグメントが抱える要求をしっかりと吸い上げるため、定期的な商談や説明会を行い、顧客の業態に合った商品開発や提案を行うのが同社のスタイルです。幅広いセグメントをカバーすることにより、外部環境の変化やシーズンごとの需給変動にも対応しやすい体制を確立しています。

  8. 収益の流れ
    同社の主な収益の流れは商品販売による売上です。飲食業界の顧客が注文した食材や資材を卸価格で販売し、その差益が利益の源泉となっています。大量に商品を仕入れることで仕入れコストを抑え、それを複数の顧客に効率的に届けるロジスティクスを組むことで利益を積み上げています。また、季節商材や限定品、新製品などを提案し、付加価値の高い商品群を扱うことでマージンの底上げも図っています。なぜそうなったのかというと、外食・中食産業では多頻度・多品種の受注が発生するため、安定した取引関係を築ければリピーターとして継続的な売上が見込めるからです。しかも、顧客は商品だけでなく配送スピードや在庫管理、メニュー提案など総合的なサービスを評価しており、これらが一体となって相乗効果を生み出しています。加えて、新規顧客の獲得を進めることで売上そのものを拡大し、さらに仕入れ面や流通面のスケールメリットを発揮しやすくなる仕組みが整っています。

  9. コスト構造
    コスト構造として大きな割合を占めるのは商品の仕入れコストと物流コストです。多品種の食材・資材を扱うため、在庫管理や温度管理の設備投資、人件費も無視できません。また、営業担当の訪問活動に必要な経費もかかるため、コスト最適化が経営上の重要な課題となっています。なぜそうなったのかというと、外食・中食産業のニーズに迅速かつ柔軟に対応するには、多少の在庫リスクを抱えつつも幅広い商品を常備しておく必要があるからです。さらに、鮮度が命となる食材では配送スケジュールを細かく設定し、ロスを最小限に抑える取り組みを進めています。一方で、仕入れ量を拡大してメーカー側との価格交渉を有利に進めたり、配送のルート最適化によって無駄な燃料や時間を削減したりすることも実施しています。こうしてコストと品質のバランスを保ちながら、顧客満足度を高める仕組みを確立し、利益率の安定を図っている点が同社の特徴です。

自己強化ループ(フィードバックループ)
久世では顧客からの声を定期的に集約し、それを商品ラインナップや新サービスの企画に反映する取り組みを重視しています。外食・中食事業者は常に新メニューや季節キャンペーンを行い、利用客の要望やトレンドに敏感です。そこで得られたフィードバックを基に、よりニッチな需要に応えられる商品を追加したり、発注しやすいシステム改良を進めたりすることで、顧客の満足度を上げる好循環が生まれます。売上拡大に伴って物流拠点や在庫管理の規模も拡大できるため、多品種を安定的に供給する力がさらに強化される点も大きな特徴です。こうした自己強化ループを通じて蓄積されたノウハウは、新規顧客の獲得にも活用されています。顧客が増えれば仕入れ量が増大し、メーカー側との交渉でコストダウンを実現しやすくなるので、提供価格を抑えながらサービスレベルを維持できるのです。このように、顧客満足度と業績拡大が連鎖的に高まる構造が同社の成長戦略を下支えしています。

採用情報
初任給については公表されていませんが、年間休日は120日以上とアナウンスされています。外食産業向けの卸売企業としては比較的しっかりとした休日体制があるため、ワークライフバランスを重視したい就職希望者にとっては魅力的といえます。採用倍率の詳細も未公開ですが、業績拡大に伴い人材への投資を積極化していることが予想されます。食に関わる業務に興味があり、提案力やコミュニケーション力を活かしたい方には、同社の事業は大きなやりがいを感じる分野ではないでしょうか。

株式情報
株式会社久世は東証スタンダード市場に上場しており、銘柄コードは2708です。2024年3月期の配当金は1株あたり42円で、株価は2025年1月24日時点で1,788円となっています。一般的に外食関連銘柄は景気に左右されやすいと言われますが、中食や給食事業など比較的安定的なセグメントも保有している点はリスク分散につながります。配当利回りを目安にする投資家からすると、今後の業績拡大や継続的な配当実施が期待できる銘柄として注目の可能性があります。

未来展望と注目ポイント
同社は今後、さらなるデジタル化対応を進めることで、オンライン注文システムの利便性を高めるだけでなく、需要予測や在庫管理の精度向上を図るとみられます。外食産業は新たな業態の登場や顧客ニーズの多様化が進行しており、それに柔軟に対応するためにはビッグデータの活用が不可欠です。さらに、海外調達ルートの拡充や新素材の導入など、幅広いパートナーとの連携を強化していくことで、幅広い商品ラインナップを一層充実させる可能性もあります。外食・中食分野以外にも、宅配サービスやECサイトと組み合わせた新規事業領域を開拓できるかどうかも注目すべきポイントです。また、社会的にも食品ロスやサステナビリティに対する意識が高まり、食材卸企業にも環境配慮やCSR活動が求められます。久世がこうした課題をどのように捉え、業務フローや商品企画に組み込んでいくのかも、投資家や就職希望者にとって見逃せない要素と言えるでしょう。成長戦略を具体化し、安定的な収益基盤を維持しながら新たなイノベーションを生み出す企業として、今後も継続的な注目が集まるのではないでしょうか。

コメント

タイトルとURLをコピーしました