企業概要と最近の業績
HPCシステムズ株式会社
当社は、科学技術計算やAI開発などに使われる高性能コンピュータ(HPC、スーパーコンピュータ)の専門企業です。
事業は2つの柱で構成されています。
中核となる「HPC事業」では、大学や国の研究機関、民間企業向けに、最先端の計算機システムを開発・提供しています。
もう一方の「CTO事業」では、お客様の要望に合わせてカスタマイズした一般的なサーバーやパソコンなどを販売しています。
最新の2025年6月期の本決算によりますと、年間の売上高は109億5,700万円となり、前の期と比較して15.1%の減収となりました。
これは、前の期に大型案件があった反動に加え、AI開発に不可欠な次世代GPU(画像処理半導体)の供給の不透明感から、一部案件に遅れが生じたことなどが主な要因です。
CTO事業も、企業のIT投資の停滞を受けて減収となりました。
この結果、営業利益は5億6,600万円と、前の期に比べて45.4%の大幅な減益となっています。
価値提案
HPCシステムズの価値提案は、大規模計算や複雑なシミュレーションを必要とする研究機関や企業に対して、最適な計算環境をワンストップで提供できるところにあります。
高性能コンピュータをただ販売するだけでなく、それぞれの研究分野や開発環境に合わせたカスタマイズも行うことが大きな強みです。
例えば大学の研究室であれば予算や研究テーマに合わせ、GPUクラスタや冷却システムの設計を細かく調整し、導入後もサポートを続ける姿勢を持っています。
【理由】
なぜこうした強みが生まれたのかというと、長年にわたって研究者やエンジニアと密接に関わってきた経験から、単なる機器の販売ではなく「真に役に立つソリューション」を提供する必要性を深く理解しているからです。
さらに、AI時代の大規模データ処理や学習環境を整えるために、独自のノウハウを蓄積していることも差別化要因になっています。
このように価値提案の核には、顧客のニーズにきめ細かく対応する柔軟性と専門性があるといえます。
主要活動
HPCシステムズの主要活動は、高性能コンピュータや組込型コンピュータの企画や開発、そして製造から販売までを一貫して行うことです。
研究機関向けには、計算スピードと安定性を最優先に設計されたクラスタ型システムの提供が中心で、産業向けには、耐久性や長期供給体制が求められる特殊構成の組込型コンピュータを製造しています。
これらの活動が成り立つ背景には、高水準の設計力と迅速なプロトタイピング能力があります。
【理由】
なぜこのような活動が実現できるのかというと、社内に高い専門性を持つエンジニアが在籍しており、顧客との打ち合わせから試作・検証、そして量産までをスムーズに進めるプロセスを確立しているからです。
さらに、最新のGPUやCPUの動向を追いかけ、効率よくシステムに組み込む技術を磨いてきたことで、研究開発と実装を同時並行で進めることが可能になっています。
こうした包括的な活動によって、顧客の多様なニーズに合致する製品がタイムリーに市場へ投入されています。
リソース
HPCシステムズのリソースには、人材面と設備面の両方があります。
人材面では、高度な専門知識を持ち、ソフトウェアからハードウェアまで幅広く対応できるエンジニア陣がいます。
これによって、設計や開発プロセスだけでなく、導入後のアフターサポートまで質の高いサービスを提供することができます。
設備面では、最新のGPUサーバや検証用のベンチマーク環境などが充実しているため、顧客企業や研究機関が要求する複雑な検証作業やチューニングを短期間で実施できます。
【理由】
なぜこうしたリソースが整っているのかといえば、研究者やエンジニアが自分たちの実験を社内で素早く試せる環境を常に用意するという方針に基づいているからです。
これにより、新しい要素技術を早期に実装して不具合を洗い出し、市場投入のスピードを上げる好循環が生まれています。
パートナー
HPCシステムズはアズワン株式会社との資本業務提携を結び、相互の強みを活かした連携を深めています。
アズワンの流通ネットワークを活用することで、研究者やエンジニアへ効率的に製品情報を届けられる点が大きなメリットになっています。
【理由】
なぜこうした提携が重要かというと、高性能コンピュータや組込システムは専門性が高く、幅広い分野へ認知を広げるには適切なチャネルを活用する必要があるからです。
さらに、研究現場の声を直接拾い上げるような仕組みを強化することで、共同開発の可能性が増えたり、新しい製品群を生み出したりできる土台ができあがります。
このようなパートナー関係は一社単独では得られない情報や顧客基盤を共有する点で、将来にわたる成長基盤を支える大きな要素です。
チャンネル
HPCシステムズは、自社の営業所を東京・京都・名古屋に展開しており、直接顧客とコミュニケーションを取りながらニーズを把握できるようにしています。
また、オンラインプラットフォームやWeb展示会などのチャネルを積極的に活用し、物理的な距離を超えて製品情報やサポートを提供しています。
【理由】
なぜこうしたチャンネル戦略をとっているかというと、高性能コンピュータや組込型コンピュータの導入には専門的な説明が必要であり、顧客との双方向のやり取りを丁寧に行わなければ製品の特長が伝わりにくいからです。
オンラインでの情報提供だけでなく、リアルな拠点でも対応できる体制を作ることで、研究者や企業が持つ細かな要望を漏らさずキャッチできるようになっています。
顧客との関係
顧客との関係づくりでは、カスタマイズ提案と導入後の継続的なサポートが重視されています。
研究や開発の現場では、実際に使ってみて初めてわかる課題が多く、問題発生時にはすぐに対処することが求められます。
HPCシステムズは、導入前のヒアリングから導入後の運用サポートまで、手厚いフォローを行う方針を持っています。
【理由】
なぜここまで力を入れているかというと、高性能コンピュータは企業や研究機関にとって重要なインフラであり、一度評価が高まれば長期的なリピート需要が期待できるからです。
そのため、顧客がシステムを使いこなし、十分な成果をあげられるようにすることを大切にしています。
こうした姿勢は信頼関係を築くだけでなく、次世代システムに向けたフィードバックを得る機会にもつながっています。
顧客セグメント
顧客セグメントには、大きく大学や官公庁などの研究機関と、産業機械メーカーをはじめとした民間企業が含まれます。
研究機関は高度な科学技術計算やシミュレーションを必要とし、企業は生産ラインや検査装置などへの組込型コンピュータを求めます。
【理由】
なぜこのように多様なセグメントに対応しているのかというと、HPCシステムズの技術は「大規模データ処理」や「高速演算」という基盤技術であり、学術的にも産業的にも幅広い応用が可能だからです。
さらに、それぞれのセグメントが抱える課題に合わせてシステム構成を提案するカスタマイズ力があるため、ニッチな市場でも確固たる地位を築いています。
こうした柔軟性によって、大学の先端研究から工場の現場レベルの検証システムまで、幅広い利用シーンでHPCシステムズの製品が導入されています。
収益の流れ
収益の流れは主に製品販売とクラウドサービスの提供から成り立っています。
高性能コンピュータ本体やパーツ類を販売する一括収益だけでなく、クラウドを活用した解析プラットフォームや運用サポートの料金も含まれています。
【理由】
なぜこのように多角的な収益源を持っているのかというと、ハードウェア単体の利益だけではなく、運用やメンテナンス、さらにはクラウド経由での大規模データ解析をサブスクリプション型で提供することで、継続的な売上を確保できるからです。
研究機関ではプロジェクト単位での利用が多く、企業では生産ラインなどの安定稼働が必要になるため、サポートや保守契約による追加収益が見込めます。
こうした仕組みにより、一時的な受注に左右されない安定的な経営が可能になっています。
コスト構造
コスト構造は研究開発費や製造コスト、営業・マーケティング費用を中心に構成されています。
研究開発費がかさむのは、高性能コンピュータの新技術や冷却技術などに継続的な投資が不可欠だからです。
製造コストについては、GPUやCPUなどのハードウェア部品が高性能化するにつれて価格も上昇傾向にあり、それに対応した品質管理や組立工程にもコストが発生します。
営業・マーケティング費用では、オンラインチャネルとリアル拠点の両面を維持するため、人件費や展示会関連の費用がかかります。
【理由】
なぜこれほどコスト構造が大きくなるかというと、高度な技術開発と顧客サポートを両立するには人材への投資が欠かせず、高付加価値を提供するために常に設備や研究環境をアップデートし続ける必要があるからです。
これらの費用を適切に管理しながら、収益拡大と持続的な成長を目指しています。
自己強化ループについて
HPCシステムズが成長し続ける背景には、自己強化ループとも呼ばれる仕組みがあります。
新技術開発と市場投入を繰り返すことで、顧客からのフィードバックを取り込みながら製品を改良し、より魅力的なソリューションを提供できるようになるのです。
例えば、大規模言語モデルの学習や推論を高速化するためにクラスタ構成を最適化する技術を開発すれば、研究機関や企業の顧客から追加の要望が寄せられます。
その要望を元にさらなる高性能化や省エネ化を実現すれば、新たな市場を開拓できる可能性が高まります。
こうしたフィードバックループが効果を発揮するのは、導入後の運用サポートを通じて現場の声をくまなく拾い上げられる体制があるからです。
結果として顧客はリピーターになり、新たな顧客にも良い評判が伝わり、継続的な収益に結びついていくという自己強化ループが生まれています。
採用情報
採用面では、初任給が月給28万5千円から50万円と幅広く設定されており、技術的スキルや経験を持つ人材を積極的に受け入れる体制です。
平均休日も完全週休二日制で充実していることから、ワークライフバランスにも配慮されています。
採用倍率は公表されていませんが、高度な専門知識やソリューション提案力が必要な職種が多く、即戦力から育成枠までさまざまな可能性があります。
新卒だけでなく中途採用でも入社後の研修やOJT制度が整備されており、短期間でプロジェクトに参加できるのが特徴です。
株式情報
HPCシステムズの銘柄は6597で、1株当たり株価は1215円前後で推移しています。
配当金は未公開であり、内部留保を研究開発に充てる形で成長を優先している可能性が考えられます。
時価総額が50億円ほどと中小型の部類に入るため、大幅な成長が見込めれば株価の変動も注目されやすいと言えます。
AI関連や高性能コンピュータ分野の需要拡大が続けば、中長期的に株式市場の評価が高まる可能性があります。
未来展望と注目ポイント
HPCシステムズは、高性能コンピュータ市場の成長とAI技術の普及の流れに乗り、さらに事業拡大を図る可能性があります。
大規模言語モデルや自動運転など、計算力を必要とする分野が増え続けているため、高度な演算技術を提供できる企業は今後も需要が途切れにくいと予想されます。
AI分野への取り組みとして提供を始めたテキスト生成向けフルファインチューニング環境は、独自のノウハウやサービスと組み合わせることで、新たな収益源になる見込みです。
また、資本業務提携先のネットワークを生かして海外市場への進出が本格化すれば、さらなる成長が期待されます。
冷却技術や省エネ設計など、技術的なハードルもある一方で、それらの課題を克服するたびに高い信頼を得られる好循環が生まれるでしょう。
ビジネスモデルやIR資料からもわかるように、研究開発への投資と顧客フィードバックの積極的な取り込みが成長を支えるカギになります。
これからもAIや高速演算の新技術に注力し、多様な業界との連携を広げていく動きに期待がかかります。
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